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K-HIPHOPもエモの時代。孤独や不安には韓国のEmo Rap(エモラップ)が効く。

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K-HIPHOPもエモの時代。孤独や不安には韓国のEmo Rap(エモラップ)が効く。

日本でも韓国でも盛り上がりつつあるエモラップ

音楽は盛り上がるためだけのものじゃない。時には悲しかったり寂しかったり、何かに怒っている時でも聴きたくなるもの。そんな時に1人でただ音楽に身を任せ浸れるのはやっぱりエモ系。まずはエモラップって何なのか?からご紹介したいと思います。

ローファイでもチルでもない、Emo Rap(エモラップ)とは?

エモラップとは、主にロックミュージックに影響を受けつつ、鬱々とした気持ちや孤独感、不安、飲酒や薬についての歌詞を多く含んでいるHIPHOPのこと。エモとは、エモーショナル(感情的、情緒的な様子)の略。

エモラップとしてジャンル分けされるラッパーとして、XXXテンタシオンジュースワールドリルピープリルザンなどが挙げられます。 日本人だとHideyoshiKivi VavaTYOSiNあたりかなと。USシーンでは若くして急死するエモラッパーがとても多いのも印象的です。

yohioエモっぽい画像
日本でもギタリストとして活動していたYOHIO(画像右)

最近は若者の間で日常的にも「エモい」という言葉を聞くようになりましたが、私が「エモ」で想像するのは2000年代初頭の「エモボーイ」「エモガール」と呼ばれた、パンクテイストのファッションに身を包んだ白人の10代たち。当時は日本でもV系全盛期で、原宿にはパンクやゴシック調のファッションブランドが多く出店していました。私も今と違いバンギャだったので、KERAなどの雑誌を読んでは憧れていたものです・・。

中性的で可愛いさも持ち得ているファッションや容姿が特徴的。長い髪をガチガチに固めている人はもうあまり居ませんが、細身で白人のリル・ピープ(正確にはスラブ系なので、白人と言われない場合もあり)やリル・ザンは見た目からもなんとなーく往年の「エモボーイ」を継承していると思いませんか?

現在のEmo Rapper (エモ ラッパー)

K-HIPHOPもエモの時代。孤独や不安には韓国のEmo Rap(エモラップ)が効く。
XXX Tentacion

さて、時代は2020年。エモ系と呼ばれるジャンルの人々はほぼ見かけなくなり、エモラップが世に出たことからラッパーたちも姿を変えました。

元々黒人文化だったHIPHOP。そこに白人やアジア人が介入することは難しいと言われていました。歌詞は自分や仲間の自慢、俺はお前より勝っている、お前はここがダセェ。などなど、大体が自分アゲ、嫌いな奴サゲでした。でも、ネガティブなことビートに乗せちゃダメなんて法律ありませんよね、そこで出てきたのが、前述したXXX TentacionJuice Worldです。よりメインストリームにいるEminemやKanye Westも、過去に自身の精神面に言及した歌詞を歌ったことがあります。

BLOO (ブルー)

リリースから約3年経った今でもチャートランクインする程ド定番K-HIPHOPとなった「Downtown Baby」。まず最初に聴こえてくるギターリフ、まだ歌詞が始まってもいないのに切なさで心がキュッっと締め付けられる感じがしませんか?それ、「エモい」って言うんですよ。
エモhiphopでは、決して良い意味ではなく感情的なのがエモ。切なさ、悲しみ、絶望など本当は感じたくはない息苦しさこそエモなのです。「パーティー楽しい!」とか、良い意味での感情の動きはエモにカウントされないのです。実際に歌詞は「辛いことがあったら俺のところへ来て」「君がいないと何もできない」みたいな、所謂メンヘラっぽい内容です。

BLOOの見た目からも分かる通り、エモラップしているからって見た目がエモ系の典型的な風貌である訳ではありません。ただ、ちょっとエモだな!?という点を挙げるとしたら首のタトゥーと口元のピアスでしょうか。ピアスはエモやパンクの要素として大きな存在で、痛みを伴うことから一種の自傷行為ともとれるファッションアイテムです。

TYOSiN (KID NATHAN)

TYOSiN(トキオシン)は、lil peepのルーツと同じスラブ系民族のチェコやなどヨーロッパ諸国でもアルバムがチャート入りするくらい人気の日本人ラッパーです。CoogieSKOLORなどの韓国人ラッパーとも親交があります。
リリックは従来のマッチョなHIOHOPではなく、エモい愛や孤独、生死についてが多め。ギターサウンドやロックっぽさが入っていなくても「このトラップエモじゃん・・・」と思わせる曲も勿論あるのですが、「HYPE」の冒頭でも使われているように哀愁の出し方が違います。この哀愁こそ「エモ」です。
見た目で言うと、昔のエモ系のイメージと同様にピアスの量が多い。往年のエモボーイで顔面にタトゥーの入っている人はあまり見たことがありませんでしたが、最近のラッパーはエモかどうか問わず結構顔にガッツリ入れちゃう人多いです。で、やっぱエモに分類される人は特に多いイメージ。

K-HIPHOPもエモの時代。孤独や不安には韓国のEmo Rap(エモラップ)が効く。
lil peepの首から頭にかけてのタトゥー

韓国のおすすめエモいラップ

YUZION(ユシオン) – 18 (prod. Dayrick)

韓国エモラップ界の新星ユシオンちゃん。今ではYng & Richで若くして成功したラッパーたちの仲間入り。上手いんだけど、ちょっと初々しさも残る歌声が可愛いくて良い。韓国のフィメールラッパーにはCLやQueen WASABIなど、強めなお姉様方が多い一方で、情緒を歌う彼女が年齢を重ねるごとにどう変化していくのかも楽しみです。

2019年デビューアルバム「YOUNG TRAPPER」に収録された「18」。lil peepを意識したであろうタイトルの「Look at Me!」を筆頭に、エモさ全開なこのアルバムがデビューにして最高傑作。それぞれ良さがあるのでアルバムを全曲通して聴くことをお勧めします。
こちらのゴリゴリトラップは、彼女の曲を多く手掛けるDayrickが担当。今年7月リリースした「Yuzion, Futuristic Swaver – 난장판」のプロデュースも行うビートメイカーです。

yuki

yuki

ちなみにYuzionちゃんの彼氏はラップトップボーイボーイもといFuturistic Swaverくん。エモッ!

ASH ISLAND(アッシュアイランド) – Forgot U (Feat. BLOO)

もはや韓国エモラップ界代表と言っても過言ではない2人のコラボ。エモくないはずがない。USエモ代表のJuice Worldに影響を受けたと語るASH ISLANDと、こちらもロックテイストの曲多めな先ほど「Downtown Baby」でご紹介したBLOO。声が機械っぽくなるのは、オートチューンと呼ばれる加工によるもの。オートチューンの使用には賛否両論ありますが、私は人間の発声から離れたこのキンキンした感じが、より情緒感を引き出しているのではないかなと思います。
ちなみに歌詞中では、今までいろいろなアーティストが「don’t forget」と歌ってきた中、彼らは「forgot(忘れろ)」と強がって生きています。こんなコラボ忘れらんねえよ。

VINXEN(ビンチェン) _ 텅(Empty) (Feat. 김하온(HAON)

何もしたくない時には「텅(空っぽ)」を聴いて無になってみよう。ビートもテンタシオンっぽい抑えめなトラップです。
高等ラッパー出身のビンチェンとハオン。ビンチェンはイ・ビョンジェ名義で出場していました。彼らは高等ラッパー2のチーム戦でも一緒にステージ披露しました。
「ODG」のインタビューでは「愛してると言えなくなってしまった」と語っていたVINXEN。家族や友達を愛したいのに上手くいかない鬱々とした気持ちや、機械のように学校へ行き勉強する毎日への鬱憤など、多感な年代の彼らと同世代の若者に刺さる内容の歌詞が多いのではないでしょうか。

若いエモラッパーたちが作る、韓国HIPHOPの新たな波

さて、エモとは何なんか?から韓国のエモラップシーンの代表曲までご紹介してきました。まとめてみると、新しい文化だからか10〜20前半の若いラッパーがかなり多かったように思います。また、感受性がより豊かで傷つく事も多い若者がリアルに歌う曲だからこそ、同じ感情を抱く同世代たちの間で流行ったジャンルなのではないかなとも思います。
近年チル系やローファイと呼ばれる、落ち着いて聴くようなカフェっぽかったりジャジーでオシャレなサウンドのhiphopが日本でも流行っていました。どんどん若年齢層化していくアジアHIPHOPシーンで、2020年以降はエモがアングラからメインに這い上がって来るのではないかな?と私は期待しています。

yuki

yuki

ハッピーな曲や盛り上がる曲もいいけど、たまには部屋を暗くして一人で音楽に浸ってみるのもいかがですか?

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